東日本大震災の津波で流された大量の「漂流がれき」が太平洋を横断し北米大陸へ流れ着いている問題で、環境省はがれきの漂着が今月から本格化すると予測している。来年2月までに4万1300トンが押し寄せるとみられ、現地では多額の撤去費用への懸念が出ている。このため、日本政府は計600万ドル(約4億7千万円)を米国とカナダへ供与する方針だ。
太平洋へ流れ出たがれきは推計480万トン。7割程度は海底へ沈んだとみられ、環境省は残りの133万トンが漂流がれきになったと推定している。海流と偏西風に乗り、人間が歩くほどの速さで東へ漂流。今月には1・2トンが北米の沿岸域へ到達し、その量は12月に3万1千トン、来年2月には4万1300トンに上ると推計される。
大妻女子大の兼広春之教授(海洋環境汚染)は「バレーボールなど海面に浮くものは風を受けて今年3月ごろに最初に流れ着いた」と説明。「流木や浮桟橋など大きなものは船の航行の障害となる上、プラスチック類は漂流中に破片化し、鳥やアザラシがのみ込む被害が出る。海岸に漂着すれば清掃も大変」と話す。
漂流がれきは今後、海に沈みにくい倒壊家屋の木材や流木、漁船などが多く打ち上げられると予測される。米海洋大気局は7月、アラスカからカリフォルニアまでの西岸4州とハワイ州に清掃費用などとして5万ドル(約400万円)ずつ拠出すると発表したが、費用不足が懸念されている。
日本政府は9月、米国とカナダへ1州当たり100万ドル、計600万ドルを資金供与すると伝えた。環境省は、「国際法上は流れ着いた先の国が処理することになっているが、震災では両国に支援してもらったこともあり、義援金として拠出することになった」(海洋環境室)と説明する。
漂流ごみ133万トンのうち、北米へ達するとされる4万トン以外の大部分は、「海流に乗って数年がかりで時計回りに循環し、ハワイ諸島周辺の『太平洋ごみベルト』と呼ばれる帯状の海域へ集まる」(兼広教授)という。
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漂流がれきをめぐっては、漂着物に多数の外来生物が付着し、漂流先の環境に定着して繁殖した場合、生態系などに悪影響を与える「侵略的外来種」となる危険性が指摘されている。
本来の生息地の外に持ち込まれた外来種のうち、ハブの天敵として沖縄本島や奄美大島に持ち込まれたマングースのように、在来種よりも繁殖力が強く生態系を脅かす恐れのあるものを侵略的外来種と呼ぶ。
6月に青森県の三沢漁港から米オレゴン州ニューポートに流れ着いた長さ20メートルの浮桟橋について、同州立大の研究チームが付着していた生物を調べたところ、3分の2が同州には生息しないアジアなどの生物と判明、90種以上の外来種を確認した。中でも、日本のワカメは同州では要注意リストに入った外来生物だった。イソガニやヒトデの仲間など生態系に悪影響を与えかねない生物も少なくなかった。浮桟橋の表面から採取され、焼却処理された生物は1・5トンに上った。
環境省海洋環境室によると、日米の非政府組織が8月、漂流がれきについて同州で初めて会合を持ち対応を話し合った際も、米国側から外来生物への懸念が示されたという。